「地方創生」という言葉を耳にするようになってずいぶん時がたちました。2014年に政府が公布した「まち・ひと・しごと創生法」を受けて、各自治体がさまざまな施策を行い、頻繁に使われるフレーズとなりました。この法律は現在「まち・ひと・しごと創生総合戦略」に引き継がれ、持続可能な地域経済の構築を目指し、助成金やさまざまな支援制度が設けられています。

 嬬恋村は、1960年に1万5千人だった人口が、現在1万人を割り、2045年には6500人余りになると推計されています。こうなると、消費需要の低下、産業の衰退による税収の減少、行政職員・医療やインフラ整備従事者の不足で、現在の生活を維持することが困難になります。政府が掲げる「持続可能な地域経済の構築」は、まさに眼前の課題です。

 人口が減少し、若者が都市部へ流出し、働き盛りの世代が少ない超高齢社会となった今、どうしたら地域経済を回復させることができるでしょうか。

 地域が抱える課題や環境はさまざまであるため、絶対的な手法はありません。そのため、地域に根ざした経済活動構築のためには、地域資源や人材を生かし、ビジネスの手法で課題解決する「コミュニティービジネス」が有効だと考えます。

 コミュニティービジネスがボランティアやNPO法人と異なるのは、事業収益によって事業を継続することができる点です。

 寄付や助成金を資金源とするのではなく、自ら生み出すことで自立継続的に活動することができ、雇用を生み、行政や企業と地域住民との橋渡し的な存在にもなり得ます。小さくとも経済が回り、また民間が課題解決を負担することで行政コストの削減にも効果が期待できます。

 コミュニティービジネスは、これからの一つのビジネスモデルになっていくことでしょう。

 今年6月、嬬恋村に「あいさいの村づくり協議会」が発足しました。これまで、村名にちなんで「愛妻の村」としてプロモーション活動をしてきましたが、「あいさい」を広義に捉え、愛菜(農業)、愛歳(福祉)、愛彩(環境)、愛才(教育)、愛差異(文化)、愛催(観光)など、九つの多様な「あいさい」からアプローチし、村の内発的活性化を図ろうとしています。

 構成員も職業や年齢、性別はさまざまで、それぞれの専門分野を生かし、経済的価値と社会的価値が両立する事業を創出することを目指しています。

 「地方創生」と大きく掲げると、自分とは関わりのない行政の仕事のように感じてしまいがちです。しかし、自分自身が地域の構成員であると自覚し、それぞれができる小さな一歩を踏み出す。それが地方創生の源流であり、個人の幸福にもつながると考えています。

 【略歴】1995年に嬬恋村に移住。村独自の土産品を作ろうと2016年にブランド「妻の手しごと」を立ち上げた。県農畜産物ブランド戦略協議会委員。東京都出身。